サツエイ

撮影に行ってきましたよ。
「撮影」。「サツエイ」。いいですねえ。この響き。
私も、この言葉を使うとはなあ。
まあ、履歴書と一緒に送る写真ですけれども。


履歴書やパスポートに貼るような写真なら何度も撮るものだから、簡単に撮ってくれるものだと思ったら、結構これが大変だった。
現場は、家の近くの写真屋さん。小さいお店だが、もちろんプロ。
「全身が写ったスナップ写真を撮って下さい」。これが誤解を招いたのかもしれない。


ちょうど時間があったのか、私しか客がいなかったので、私めのために3人もの人間が付くことになった。
助手らしき若い男性。コーディネートしてくれる品の良いおばさん。そして、ベテランのカメラマン。


企業からしてみれば、写真は大事なのだろう。
しかし、私にしてみれば、どーでもいいのだ。何だって。全身が写っていれば何でもいい。
素材だってパッとしないのだ。
しかし、写真屋さん方は妙に気合いが入っている。この間来た時は素っ気ないほどすぐ終わったのに。
まず、背景を作る。カメラもいつもと違うレンズを使う。
そして、大変なのが、ポージングである。


まず、ポケットに手を入れる。その入れ方も自然にしなければいけない。しかし、俺にとってポケットに手を入れること自体が自然ではない。
立ち方も正面でいいやと思っていたら、少し斜めがいいと言われた。
斜め?鎌倉の大仏の前で撮るおばちゃん軍団じゃねえんだから。
それから、足の角度、膝の角度、足の開き方、体重の乗せ方。肩の位置、手の位置、肘の角度、顔の角度。
ほとんどいろんなところを直された。
俺はこんな写真なんて初めて撮るわけだ。素人だ。
ここまでしてくれるのはうれしいけど、写真一枚撮るのにこんなに大変なのは驚いたし、俺のあまりの出来なさ加減にヘコむばかりだ。写真屋も途中であきらめたもんな。
自然な写真を撮るつもりだろうが、俺はすっかり針金人間になり、全身が緊張したまま撮ってくれた。
そして、ポーズを撮ってる時、あることに気付いた。
「俺をホストと思ってないだろうか」
そういや、俺のポーズ、どこかヒロシ入ってるぞ。


結局、写真を撮り直すことになった。


背景が暗すぎるのだそうだ。あとで写真を見たら、明らかに俺ホストだわ。顔にカゲ入ってるもの。
で、ポーズも自然な感じで撮ることになった。ポケットに手はおかしいのである。


現像まで少し時間がかかったが、一枚2000円。写真は高いなあ。
おまけしてくれて、さっきの失敗した写真もくれた。全3枚で2000円。そんなものか。
記念に保存しておこう。


ケータイにカメラがついたり、使い捨てカメラがあったり、デジカメも安くなってきたり。
写真なんて誰でも撮れると思ったら、大間違いなのである。
俺の家の近くに、こんなプロの世界が広がっているとは思わなかった。
雑誌に出ているモデルさん、写真集を出すアイドル。大変なのである。
全身に気を遣いつつ、自然な身体のラインを出す。
山田優はすごいのである。熊田曜子はすごいのである。