xパーセント減の家族(主夫体験記) 〜梅ゼリーでも必死〜

妹が大学に進学して独り暮らしすることになり、部屋の準備や入学の手続きなどで、一週間あまり母親が家を出ていた。
5人家族のうちから二人いなくなったわけだが、もうひとりの妹や父はそれぞれバイトや仕事があるので、もっぱら家事は私がすることになってしまった。
そして、今日母親が家に戻ってきたので、私の主夫業(行)はひとまず終わった。


主婦(主夫)はたいへんなこともあるが、楽しいこともあるということがわかった。
主夫が職業となるわけないが、いろいろ勉強になったり、感じることもあった。


人間には、食欲と性欲と睡眠欲があるが、意外に食欲はあなどれないと感じた。
性欲なんてものは抑えようと思えば抑えられるし(代替もできるし)、寝ようと思えば寝ればいいのだが、食欲だけは問答無用に一日約3回やってくる。
作っては腹が減り、作ってはまた腹が減る。一日中、食べることばかり考えていた。
カップラーメンやレトルトカレーお茶を濁すこともできるが、一週間という長期戦のため、なるべく自分で作ろうと頑張ってきた。
しかも、甘いものが好きなので、ほぼ毎食デザートを作った(24歳男児)。
買い物に行くのもめんどくさい&お金がかかるので、あるものでなるべく作った。
すると、賞味期限が数年前のゼリーが出てきて、粉状のゼラチンは問題ねえだろうと判断して、梅ゼリーとコーヒーゼリーを作って、ストックしておいた。
一回作るのに6人前できるが、一日もつことはなかった。それほど、私はゼリーと寒天ものが大好き(今年25歳男児)。
しかし、梅ゼリーを食す時はちょっと勇気が要った。
ゼラチンはOKだが、冷蔵庫に入れる前に「うめエキス」を入れる。これは大丈夫だろうか。
あまり汚染されないところにあったゼリーの素だが、エキスである。
においをかいだが、すげえにおいだった。言い方によっては、「腐ってる」。しかも、すげえ色してる。
自分の中で勝手に「エキスだから濃縮している」と思い込んで、エキスを注入してゼリーを冷やした。
数時間後にゼリーはちゃんとそれらしくできていた。
でも、食べる前に思った、「これ食べたら死ぬんじゃねえか」。
梅がおいしくなる前の青梅の状態で、確か人が死ぬクラスの有毒物質が入っていたなあ、と思い出した。
意外にウメはヤバいのである。しかも、エキス。
もともと毒の性質があるのに、大丈夫か。でも、人が死ぬかもしれないものをメーカーが出すわけないよな。
でも、まさか消費期限が2年前に切れたゼリー食べるヤツいねえよな、とメーカーは想定しているかもしれない。
せめて、家族が帰ってきてから食べようかな。でも、おいしそうだ。
ちょっとだけ食べて、生きていたらもうちょっと食べてみよう。
スプーン一杯すくって口に入れた。おいしかった。が、大丈夫か、俺。
結局、タッパー半分くらい食べても問題なかった。
家に独りでいると、ゼリーを作って食べるだけでも必死なのだ。


洗濯も自分でやる。
出かける前に洗濯機の使い方を教えてもらったが、こんなに最近の洗濯機がすごいとは思わなかった。
俺が小学校の頃にならった家庭科の教科書と全然違った。ほんとにスイッチひとつで最初から最後まで全部やってくれるのだ。
ちょっとしたボックスに柔軟剤を放り込んでおくだけで、洗濯機は使ってくれるのだ。
しかし、俺がちょっと間違った。
洗剤の量をケチったのがまずかったのか、俺のジーパンが洗う前より臭くなった。他の洗濯物は臭くないのに。
今、自分のにおいでないジーパンを履いている。


それから、水の大切さが分かった。
ふだん水を大量に流しに捨てていることがわかった。
コンビニとかにミネラルウォーター並んでいて、500ミリリットルいくらという価値観でいるから、お風呂の水をそのまま下水に流してしまうのがひどくもったいなく感じてしまう。
食器を洗う時も、意識すると大量の水を流していることがわかる。
風呂の水はもったいないので、有効利用のために洗濯物がちょっとしかなくても洗濯していたが、母親に言わせれば、そっちの方が電気代がもったいないということ。
そうか?


掃除もやるが、これは向き不向きがあるなと思った。言ってみれば、才能がものを言う。
家の母親は神経質なところがあるので、だいたい家の中はきれいに片付いている。
しかし、俺が整理整頓すると、どうもうまくいかない。センスがない。
いろいろやってみるのだが、どうもきれいじゃない。でも、どこをどういじったらきれいになるかわからないのである。細かいところもきれいにするのだが、全体は雑然としている。
これは私の部屋にも言えることで、あまり掃除は向いていないようだ(雑然としているが、そっちの方がどこに何があるか把握できるし、整理することで逆にものの行方がわからなくなる)。


主夫業のいいところは、時間にそれほど縛られないことだろう。
食事以外は、いつまでに仕上げなければいけないということもない。
三者によるチェック機関もないので、気持ちは楽だ。


主婦のみなさんはこんなことは毎日の繰り返しで飽きているだろうし、一般的な独り暮らしとはこういうものかもしれない。
でも、はじめての人間にしてみれば、発見もあり勉強になる。
大変だし、魅力ない作業かもしれませんが、視点を変えれば、変わるかもしれませんね。