「仁」一文字/梅関係ねえ/<押切もえ

今日はおばあちゃんの法事。三回忌らしいが、もうそんなに時間が経ったかねえ。
今回の法事、というか、これから墓参りに行くのが楽しみで仕方ない。
おばあちゃんの墓、というか、我が家の墓石の字を書いたのは、私だからだ。今は、親父が元気に働いているが、親父が何十年後かに亡くなれば、”当主”は長男の私になる。
地球が大丈夫な限り、この墓は少なくとも百年は持つので、ゆくゆくは私もこの墓に入る。


デザイン自体は両親が考えた。といっても、パンフレットに書いてあるデザインを組み合わせただけだ。そして、肝心の文字だが、「先祖代々之墓」とか単に「○○家」ももったいないので、家らしい文字にしようと、何の字を入れるか、私に権利が来た。
他の市営墓地に行って参考にしたり、漢和辞典を開いてその文字の成り立ちから文字自体の意味をいろいろ研究して、「寂」か「仁」に候補をしぼった。
「寂」は結構多い。意味もいいのだが、オリジナリティという面ではひっかかる。
「仁」はオリジナリティはあるが、「仁義」の「仁」という見方をすれば、何か「そっち」の気もある。
それに、画数が少ないので、どこか寂しい。
そこで考えた。「仁」を篆書体にした。わかりやすくいうと、印鑑によく用いる書体である。
石屋さんにデザインを篆書でお願いしたのだが、どうもしっくり来ないらしい。
そこで、漢和辞典に記載されている書体を手本にして筆で何十枚と書き、一番上手く書けた「仁」を石屋に提出した。
私は書道家ではないので、それほど上手くないとは思うが、ここではじめて小学校から大学まで書道をしてきて良かったと思った。普段の字は汚いが(言い訳すると、変に崩すので読みにくいらしい)、ここにきて役に立った。


ほんとは今日が初お目見えの予定だったが、先月我慢できずにわざわざ車を出してもらって見に行った。思ったより、墓自体は小さかったが、墓石自体は予想以上の出来だった。さすが、プロの石屋。筆の雰囲気もよく出ている。
篆書をよくわからない素人ども(=家族)は、「カニみたい」とか「子どものいたずらみたい」とか「ちんちくりん」と言うが、そういう書体なのだ。楷書や行書だと、デザイン集にものすごい達筆な字がいっぱい載っているので私の出る幕はないのだが、篆書という「一応、わかる人じゃないとわからない」という敷居があるために、一応「うまいんだろう」「私たちにはわからないが、すごいんだろう」というオーラをかもし出せるのだ。
お寺には、だいたい50近くのお墓があるが、もちろん我が家のお墓が一番新しいし、デザインも斬新(洋式だから)。そして、象形文字のように浮かび上がる「仁」の字。まるで宇宙へのメッセージのようにもとらえられる字のデザイン。こんな文字は、さぞかし高名な書家が書いたに違いないとシロウトは思うが、実際は、高校と大学でちょっとだけやった男が書いた文字だ。


今日は法事よりも、正直なところ、俺は親戚に褒められに来た。さすがに年輩の人もよくわからなかったらしく、「素晴らしく立派すぎて、あたしにはよくわからない」と、どっちにとらえていいかわからない言葉をもらった。
でも、うれしかったのは「孫に字を書いてもらって、おばあちゃんも喜んでいる。孝行になったね」と言われたことだ。
おばあちゃんのほんとの気持ちはわからない。もう少しマシな字を書けよ!と言われるかもしれないけど、孫の俺が言うのもおかしいが、きっと喜んでいると思う。そういうおばあちゃんだった。


法事に行けばきまって仕出し屋さんのごはんなのだが、持ち帰り用の折りのデザートに、和紙に梅のデザインが描かれている小袋があった。
これは甘いもの好きの俺も見たことがある。中に梅ゼリーが入ってるやつだ。
楽しみにしながら、ごはんを食べ最後のデザートを食べようとしたら、何これ?
きなこがついている団子だった。「きなこと梅?合うかねえ。ははん、中の餡が梅なんだな」と思ったら、ごくごく普通のきなこ団子だった。
梅関係ねえじゃん。


夜、テレビをふと見ていたら、モデルの押切もえのドキュメンタリーが放送されていた(「情熱大陸」)。そういや、最近テレビで見なかったなと思ってたら、首の骨を折って、何ヶ月も休養していたそうだ。普通に見てる分にはわからないが、結構苦労しているらしく、20歳の頃に恋人を亡くしたそうだ。
あたしゃ、思ったよ。モデルなんて調子のってるヤツが、男だまして成り上がっている職業だと思っていたが、そりゃ厳しい世界だよなあ。苦労している人もいるよ、と思いかけたが、ちょっと待てよ。
骨折ったのは、ハワイで波に飲まれて?おらぁ、ハワイに行ったこともねえよ。
恋人が死んだ?何番目の恋人だ?それまで何人の彼氏がいて、今何人いるんだ。いっぱいいたら、たまたま亡くなった男もいるかもな。
しかし、神様。押切もえと俺だったら、なんだかんだでやっぱり彼女の方が偉いんですね。
教訓としては「キレイな女に騙されるな」だけど、周りにキレイな女もいないし、騙そうともしてないので、意味がありません。