勝負師

NHKで何となく将棋のNHK杯トーナメントを見ていたら、有吉道夫九段が対戦していた。現役最年長の70歳。いつから棋士になったのかはわからないが、やはり盤の前に座ると、ただ者ではない雰囲気である。
まさに勝負師。いままで多くの対局をくぐりぬけてきた経験の重さが感じ取れる。言ってみれば、たかだかゲームであり、木の小さい駒をあっちこっちに動かすだけなのだが、勝負は勝負。生涯、勝負の世界にいると、私みたいな人間だと対峙するだけで参ってしまう。


結局、有吉九段は負けてしまったが、勝負がついた後に、かなり年下の藤井猛九段と敬語で話していた。大先輩なのだが、いくら若くても相手に敬意を持ち、驕ることのない真摯な姿勢は、見ていて実にすがすがしかった。


徹子の部屋のゲストに、柳家小三治師匠が出ていた。小三治師匠が出るだけで、空気はぴーんと張りつめる。小三治師匠は噺家ではあるが、考えながら話すので、途中で結構な間ができる。今のテレビでは、思わず前のめりになってしまうくらいの間なのだが、小三治師匠の間は不思議と「もつ」のである。この「間」というのが難しくて、簡単に科学的にできるものではない。結局、経験を積むしかないのだが、その経験もかなり積まないと「間」をコントロールできない。小三治師匠の間は、永年の経験が培ってきた間そのものだ。


有吉九段や小三治師匠がすごいのではない。多くの人間は、年を取るといろいろ欠陥は出てくるが、円熟味は出てくる。勝負や落語といった厳しい世界に人だけではなく、普通に暮らしている人も何らかの空気を醸し出すはずだ。


私がもう2倍人生を生きたら、どんな勝負師になっているだろうか。